ドリーム小説
26歳三話目の辺り
政宗来訪
老臣などからは、「殿は何を迷うておられるのか!」、と、一日でも早く承諾の書状を京にとの、催促の声がひっきりなし
に聞こえる中、幸村が何故答えを出せずにいるのか、それを本人以上に理解できる者達だけは、複雑な思いを隠せずにいた。
その中には佐助が言ったように、「を側室に」、と考える者も少なくない。特に身近に接する側女中には、叶うものなら継室にと望む者までいたのだから、
見ている者にそう思わせてしまう程に、あの三人の繋がりは、特別で、それでいて、自然な事だった。
真田の、幸村の為なら悪も辞さない佐助ではあったけれど、流石にどうすべきか考えあぐねて、人目をはばからず頭を
抱える日々を送っていた。
しかしながら、こういう時に限って招かざる客というものが、やって来るものである。
「よう、猿!」
「・・・・竜の旦那!また来たの?!」
数年前、京で再会して以来、この男は数か月に一度は、暇潰しだと甲斐を訪れる。
「またとはつれねぇな。Hey!なんだその顔は。随分と不貞腐れてんな」
「別に不貞腐れてるわけじゃないけど・・。大きなお世話だよ。それより、奥方様ほっぽっといて、こんなとこ来ていいの?」
「いいんだよ、気晴らしに行ってこいって言ったのは、その奥方様だ。で、真田はどうした?」
「旦那なら、修繕中の堤の視察。夜には帰ってくるはずだけど。毎回言ってますけど、せめて先触れくらい出せないの?」
ぶつぶつと嫌味を言えば、考えといてやると、政宗にふてぶてしく返されて、佐助の眉間の皺がさらに増えた。
「あ、先に言っとくわ。若様は今お勉強中だから邪魔しないでよね」
「なら、は暇なんだな。真田が帰ってくるまで、相手してもらおうか」
「・・・・・。今難しい時なんだよ。あんまり変なこと言わないでよ」
「An?どういう意味だ」
「・・・旦那に京から縁談が来てるんだよ。それで、色々と・・・上手くいってない」
「なるほどな。Well then・・・真田はどうするつもりだ?」
「さあ」
「虎のおっさんがよこしたんなら、いい話なんだろう?何が問題なんだ」
「問題なんてない、って言いたいとこですけど、」
「何か、言いたいことがあるようだな」
さらりと鋭い事をいう政宗に、内心佐助は舌を巻きたくなった。
「・・・だからあんたの事、嫌いなんだよ」
「話してみろ。真田には、うちのガキが生まれた時に祝も貰ったしな。場合によっちゃあ協力してやるぜ?」
この察しの良さを、うちの旦那にも半分分けて欲しい。いや、主は色恋以外は、確かに「出来る男」ではあるのだが。そんな事を頭の端で考えながら、佐助は賭けに出てみる事にした。結果どう転んでも、受け入れる。そう覚悟を決めて。
政宗は勉学の師と入れ替わりに大助の部屋を訪れ人払いをした。
「よう、大助」
「まさむねさま!」
ととと、と前まで駆けてきた大助に、政宗はよう、と手を上げると、そのまま下を指した。
「そこに座れ」
「はい!」
きらきらと、好奇心に満ちた目は、まるで彼の父親と同じで、思わず笑いそうになりながら、政宗は表情をきりと引き締め、
大助と向き合った。
「いいか、今から聞くことに、嘘偽りなく答えろ」
「あの・・?」
「お前、がすきか?」
「はい!もちろんにございます!」
何故そんなことを聞くのだろうかと、大きな目を不思議そうにぱちぱちと瞬きしながら、大助は政宗を見ていた。
「もう一つ聞く。親父の縁談に反対してるそうだな?何故だ?母親が欲しくないのか?」
「・・・・・」
うって変わって黙り込んだ幼子に、優しく語りかける。
「どうした」
「が・・・かわいそうだからにございます」
「可哀想?何故そう思う。言ってみろ」
「・・・・は、ちちうえがすきなのです」
思わぬ返答に、政宗は一瞬呆気にとられながら、Oh、とこめかみを抑えた。
「だからなのか?」
「・・・・ちちうえも、がすきなのです」
ぽつりぽつりと紡がれる言葉に、政宗は思った。こんな小さな餓鬼ですら気が付くのに、何故当人同士はこうも鈍いのかと、
少々佐助にも同情せざるを得ない。
「は、だいすけのははうえにはなれぬのですか・・・?が、が・・・、まことのははうえならよかったのに・・・」
しょんぼりと項垂れ小さくなった肩に、政宗は生まれて間もない我が子を重ね、はあ、とため息を付いた。
「そこまで言うなら、この俺が一肌脱いでやる。上手く行けば、はお前の母上様になれるかもしれないがな」
「まことにございますか?!」
身を乗り出して目を輝かせる大助を、ちょいちょいと手招きする。寄ってきた大助の耳に、
「いいか、今から言う事を誰にも話すんじゃねぇぞ。これは謀だからな」
「はい!!」
「俺がに縁談を持ちかける。お前は反対せずに素知らぬふりで認めてやれ。俺は、真田も許可したとには言う」
「でも、それでは・・」
失敗を恐れて不安にかられる大助に、政宗は此度の謀を、如何にも密命の様に外に漏らさぬよう耳打ちしてゆく。どうせ、
どこかに気を揉んでいる忍が一匹、ちゃっかり聞き耳を立てているだろうが。
「・・・・という訳だ。真田がを望むなら、追いかけてくるはずだ」
政宗は、目を細めると、どうだ、親父を信じられるか、と問いかけた。
「ちちうえは、まことのおとこにございますれば!かならず!!」
両手で握り拳をぎゅっと作って、大助は立ち上がった。
「よく言った!」
政宗も立ち上がると、がしがしと大助の頭を撫で、早速とばかりに大股で部屋を横切ると、ぱんと障子を開けた。
「Ha!面白くなりそうだ!」
そんなことを言えば、軽く殺気がどこからか飛んできたが、政宗は知らぬ存ぜぬと無視して、のいる室の方へと再び歩き出した。
2013.04.09