ドリーム小説
故無い愉悦
数歩の距離に女が立っていた。
気配は全く感じなかった。何もないところに突然現れたその女は、偵察の折に見た伊予水軍の姫巫女のような南蛮風
の風変わりな衣を纏い、手を伸ばせば触れられる距離にただ呆然と立ち尽くしていた。この山小屋は人は滅多に立ち入らぬ程山奥にあり、忍仲間も滅多に
訪れない。戦の後だけ使う、己だけの休息所と言ってもいい。此度の戦は辛うじて武田の勝利と終わったが、忍隊も総出の消耗戦であった。
帰り着いた上田の城で、珍しくあの隊長が数人を残し、数日の休暇を皆に与えた程だった。気を抜いていた。だからと言って忍の身分で言い訳が立つわけではな
いが、此度はしまった、などと思う間もなかった。視線を外すことができず、お互い微動だにしない状況に耐えきれなくなったのか、
女の方が先に口を開いた。
「あの〜その格好・・。忍者のコスプレ・・ですか?」
聞きなれぬ言葉だった。女の問いには答えず、
「何者だ女、くノ一か」
逆に問えば、は?と女は間の抜けた声を上げる。
「何者って、普通の一般人ですけど・・・」
「・・・・」
「あの・・?っていうか、ここ、どこですか?」
私さっきまで大学に向かってたはずなんですけど、と女は言う。女の言う普通とは何かは知らぬが、大学とは四書の大学か、
行くとは些かおかしな表現だが、普通のその辺の女が大学を学ぶなど聞いたことがない。
「・・・・」
「無言で返すの止めてくださいよっ」
眉根を寄せてどこか落ち着かない様子の、年の頃は主と同じかまだ娘と言ってもいい女は、忍の目で見れば見事に隙だらけで。無防備のお手本のような
其の様で、現れ方こそどこぞの有能なくノ一かと思ったが、如何なものか、いや、間違いなくくノ一などではない。香か何かわからぬが、
忍ぶ者には有り得ぬ、香りがする。なれば、何か。何故あのように現れたのか。あらゆる可能性を鑑みるは、危険を
回避するための忍の本能なれど、目の前の女の緊張感のない様に、無駄な事よとだんだんと考えるのも億劫になって、
適当に脅してさっさと本人に吐いてもらえばよいと、答えぬまま女に近寄り、後ずさるその腕を強引に掴んだ。
「ちょ、何するの放して!」
ぱしりと手を叩かれ、いやいやこないでと抵抗する弱弱しい躯に、甚く加虐心を擽られて、未だ治まりきらぬ惨忍な高ぶりが
、鎌首を擡げた欲望の後押しをする。再び掴んだままきゃあきゃあと騒ぐ女の腕を引きずって、奥に放り投げた。立ったまま変わ
らず無言のままに見下ろしていると、女はビクリと急に大人しくなった。胸元に手を寄せ身を固くして怯えている。慄く女の瞳に映る
己の姿が、戦場で見境なく敵を屠る時のような、どこか獣じみた目をしている事に苦笑しながら、高ぶる鼓動の赴くままに、カタカタと震える
細身を床に縫いつけた。本当の事を言えばやめてやるなど口から嘘を吐きながら、袷のない衣を擦り上げるようにして肌を暴いてゆくと、
大粒の涙をこぼしながら、訴えてやる!と女が叫んだ。訴えるとはいったい誰にか。それが我が主ならば少々困ったことになるなと
考えながら、行為を続けた。他国の草なればこのような事は日常茶飯事で、何の咎めもあらぬであろうが、これが純粋な我が主の、
最も嫌う行為であることを才蔵自身よく分かってはいる。されど、今ばかりは忠義心は、何処へ。
全身を撫で上げれば身体つきも反応も、これはやはり申告通り普通の女だと答えを得るが、その普通が余計に求められてならぬ。
ここ数日駆けまわった戦場で血を浴び過ぎた。理由なき悦びに浸り柔らかな肌を蹂躙しながら、時折責め立てるように問い質す中
で、女は名を、、といった。
2012.09.04