ドリーム小説
閑話
信玄と幸村と政宗の、茶席でのちょっとしたお話+α
「幸村よ、乳母とはどういう関係なのじゃ」
政宗の言葉が、それなりに気にかかっていた信玄は、回りくどい事を好かぬ上に、そんなことをしても、何時まで経っても、
鈍いこの男から答えが返ってこぬことを知っているので、ずばりを尋ねた。信玄が、しゃわしゃわと手際よくたてた濃茶を差し出しすと、
幸村はそれでも何を問われているのか分からないのか、はぁ、と困った顔をした。目の前の茶を、「お点前、頂戴いたしまする」と手に取り、
男らしい所作で飲む幸村を横目で見ながら、この男は何と答えるのかと、政宗は素知らぬ顔で聞いていた。
「どういうとは・・・。乳母は乳母、それ以上でも、それ以下でも御座いませぬが」
予想通りと言えば予想通り。つまんねぇと、政宗が足を崩す。
「そうか?なんかいい雰囲気だったじゃねぇか」
「いい雰囲気?」
「できてんじゃねぇのか?」
「できっ?!ま、政宗殿は何故左様に、は、破廉恥なお考えになるのか!」
そんなことはあり申さぬ!と、叫んだ幸村に、いちいち声がでけぇんだよ!と政宗が耳を塞いだ。
「落ち着かぬか、幸村。されど見た所、唯の乳母、というには儂も見えなんだぞ」
信玄がそれとなく、鎌を掛けてはみるが、
「某、上様が何を仰りたいのか、皆目見当が付きませぬ・・・・」
先ほど申し上げた通りに御座る。大事には思うておりますが、に限った事には御座らん。甲斐の皆が某の家族、特別な事は何もあり申さぬ。つらつらと幸村が言う事は、どれも正論で、おそらくその通りなのだが、政宗は腑に落ちない。今度は政宗の前に出された茶を、「いただくぜ」と作法も飛ばして、ごくりと飲み干した。
その夜、宴の席で、信玄は幸村に聞こえぬように、政宗に言った。
「独眼竜、あれはやはり、なんでもないわ」
「An?」
「乳母の事じゃ。今日一日、あやつらを見ておったが、そなたの考えるような、色めいたものではなかろうて」
離れた席で、山本勘助と再会の盃を交わす幸村を見ながら、信玄はううむと、顎髭を撫でた。
「本人の申す通り、家族と認めておるのだ。ただし、少々特別なのやもしれぬ。己の子に乳をやり、育ててくれている女子を、
快く思わぬ男がおろうか。ああ見えて幸村は、本当の意味で、己の懐に入れる者は少ないからのう」
いうなれば、同志、に近いかもしれぬ。信玄の言う事は、確かに的を得ている気がした。
「それにしても、独眼竜よ。何故其方はそこまであの乳母を気にするのだ?」
「・・・あの真田が女連れっていうのが気になっただけだ。特に意味はねぇ」
白々しく言ってはみたが、そうか、と素知らぬ風を装ったこの大虎は、それが嘘だと、気付いている。核心も持てない今、あの件を、
政宗は誰にも言うつもりはなかった。真田の女じゃないってぇなら、遠慮する事はねぇ。政宗は腕を組むと、早速閃いた良案に、
面白くなりそうだと、人が見れば何の悪巧みかと思うような表情で、ぐいっと酒をあおった。
2012.11.09