ドリーム小説
一寸先は闇
特別に数日もの休暇を与えたはずの部下が何故か上田の草屋敷に現れて、肩の荷を縁側にどかりと置いたときから、
佐助はいい予感がしなかった。
「何これ」
「女だ」
「そりゃ見りゃわかる」
「急に目の前に現れた」
「はぁ?急にって」
「言った通りだ。庵にいた俺の目の前に、気配も悟らせず一瞬で現れた」
「何それ、伝説の忍じゃあるまいし。そんな事ありえるの?」
もうその時点で黒じゃんと、佐助が言えば、才蔵は鼻を鳴らした。
「庵ってあのお前が使ってるやつだよね。わざわざあんな何にもない山奥に来るなんて何者?」
「知るか。調べたが、忍とは違う」
「ふぅん。で、どうすんのそれ」
「おかしなことを吐くもんでな。それで連れてきた」
調べた、と聞いて拷問でもしたのかと女を上から下まで見てみれば、見た事のない変わった出で立ちではあるが、そこから
はみ出す水水しい肌に打ち据えられた様子はなく綺麗なままで、その手法が容易に想像できた。佐助とて必要とあらば
やらぬでもないが、それは女子に関しては殊更潔癖な我らが主が最も嫌うやり方である。勿論「やっちゃいました」
などと馬鹿正直に申すわけではないが、露見すれば間違いなく槍か拳が飛んでくる。
才蔵とてそれを知らぬ筈はなく、他の者ならまだしも、専ら主の意志に特に忠実な男が、と思えば珍しい事もあるものだ
と真田忍隊の長、猿飛佐助は思った。
更にいえば、忍隊一冷酷無比なこの才蔵、平素ならば目の前に現れた時点で、問答無用で女の息の根を止めている。
「害なさそうなら自分で旦那のとこに連れてってよ。悪いようにはしないだろ。あ、破廉恥言い出すから着替えさせてからね、それ」
短い裾から足が丸見えなので佐助が指摘すると、「応」と何事もなかったかのように返事をする男が
なんともしらじらしく映り、佐助は大げさな身振りで頭の後ろで腕を組んだ。
「あ〜あもう調べちゃったのか〜。残念、俺様がその役目やりたかったね」
最近御無沙汰だし、と嫌みをきかせて言ってやると、
「お前はやりすぎる節がある。吐かせる前に昇天されては、元も子もないだろうが」
「へっ、巧いって言って欲しいね!つい興が乗って甚振っちゃうんだよねぇ。で、その女、何を吐いたって?」
聞けば無表情のまま簡潔に語られるその内容に、佐助はなんだか頭痛がしてきた。
「で?信じたわけ?それ」
目の前の部下が言うには、とどのつまり脅しても訳のわからぬことばかり喚く女を、お前が悪いと剥けば、
これも一種の拷問と呼べる交わりの最中、涙ながらに遠い四百年も先の世からやって来たなどとのたまったらしい。
目前の男の話を聞くに、確かにあれは、この戦国の世の女どもとは、少々毛色が違って見えた。
「あれで嘘を付いているというならば、俺は自信を無くす」
「あのね・・・どんだけ?」
同郷のくノ一でも簡単に落とすその手管で、一体何をしたのだと問えば、
「途中これは完全に白だと分かったがつい、な。お前が言う、興が乗ってというやつだ」
「はあっ?素人ってわかってやったの?」
ご愁傷様、と女に同情を寄せると、吐くものがなければそれ以上吐けまいよな、とくつくつ忍び笑いを漏らすので、
流石の佐助も顔を引き攣らせた。
「ま、神隠しはよく聞くけど、時を超えるっていうのは流石にねぇ・・聞いたことないわ俺様も」
「これを見ろ」
「へぇ、身体以外も一応ちゃんと調べたんだ。流石、仕事が早いね才蔵」
嫌味を言いながら、才蔵から渡してきた袋のようなものの中身を、一つ一つ床に広げていく。分厚い冊子が数冊、
四角い金物と瑠璃で出来たよく分からない物。随分と精巧な花の絵の描かれた手拭い。袋に入った懐紙のような物。
棒状のものが入った小さな袋。それと、がちゃがちゃと環に連なったいくつかの精巧な鋳物、おそらく鍵、か。
「見た事ないもんばっかだね。なにこれ、南蛮製?」
「わからん」
「なら、これに関しては引き続き責任もって調べといて。俺様出掛けて来るけど、明後日には帰ってくるからその女の件、
結果報告よろしく」
「承知」
そう言った男の雰囲気が、どこか前とは違う事に気が付いて、あ〜あ、ほんと面倒くさいことにならなきゃいいけどと、
心中で愚痴りながら、猿飛佐助はその場から煙を巻いて姿を消した。
2013.08.03